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ユニバーサルロボットの親会社テラダインロボティクスのグローバル・テクニカル・コンプライアンス・オフィサーであるロベルタ・ネルソン・シェア(Roberta Nelson Shea)が率いる世界的な専門家チームは、ロボット機器、ロボット・アプリケーション、ロボット・セルに対する安全要件を14年ぶりにアップデートしました。更新されたISO 10218安全規格と、ロボットメーカー、インテグレーター、エンドユーザーにとっての意味について、ロベルタに話を聞きました。
Q: 最近の産業用ロボットの安全規格ISO 10218 が14年ぶりに更新されたニュースで、ロベルタは取り上げられていました。あなたの役割は何ですか?
私の役割は、正式には「コンビーナー」(Convener)で、標準化団体で使われる用語です。これは一般的には「議長」のような役割です。基本的には、私がグループをリードし、合意形成を図ることで前進できるようにサポートするということです。
グループには約160人の仲間がいます。ロボットメーカー、インテグレーター、周辺機器サプライヤー、エンドユーザーなど、ほとんどが業界関係者です。また、試験所や学界の人々もいます。グループには、ヨーロッパ、北米、メキシコ、ブラジル、日本、韓国、中国、インド、オーストラリア、そして通信でロシアからも参加しています。まさにグローバルなチームで、これは私たちの誇りです。これほど世界的に受け入れられて採用されている、機械や設備に関する安全規格を私は他に知りません。
私たちの信条は、一歩ずつ改善に努めることです。完璧を目指していつまでも時間をかけても、なかなかそこに到達することはできません。この信条のおかげで、私たちは改善に向けた道を歩み続け、前進することができました。
Q: 変更された内容そのものに入る前に、ISO 10218をよく知らない人のために教えてください。ISO 10218 は何に関する規格で誰に関係するものなのでしょうか?
国際規格であるISO 10218は、これから各地域において、異なる名称で、異なるスケジュールで採用される可能性があることにご留意ください。例えば、欧州連合(EU)では、EN ISO 10218:2011規格の整合化に1年以上かかりました。2025年規格は、EU機械指令のEU官報に掲載するために提出されました。一方、米国とカナダ(それぞれANSI R15.06とCSA Z434として)では、新しい10218の改訂版を2025年後半に採用し、リリースする作業が進行中です。
ISO 10218のパート1とパート2は、産業用ロボットの世界における安全の基礎となる文書です。パート1は、ロボット本体に関する安全要求事項を示しており、主にロボットメーカーに関係する内容です。
パート2は、ロボットアプリケーションとロボットセルに関連する要求事項を示しています。これらは同じもののように聞こえるかもしれませんが、他の安全規格と同様に、定義の細部を深く注意して理解する必要があります。「ロボットアプリケーション」には、ロボットのエンドエフェクタ、ロボットの定義された使用目的、プログラミングソフトウェア、およびワークが含まれます。ロボットセルとは、人を保護するための対策が講じられた状態のロボットアプリケーションを指します。
パート2に示された安全要求事項の適用が完了すれば、「ロボットセル」が完成することになります。これは、必ずしも安全柵などがある状態を意味するものではありません。人が危険源から守られるように安全が確保されているということです。フェンスやガードを使うこともできますが、ライトカーテンやセーフティスキャナーなど、他にもいろいろな方法があります。あるいは、ロボット自体の安全機能を利用して、協働ロボットセルを実装することも可能です。
Q: 2025年版アップデートの最も重要な要素は何でしょうか?
誰もが納得する最大のポイントは、2011年版では(注意深く読めば)暗黙の了解となっていた要求事項が明示されたことです。
例えば、「持ち上げ能力(capability of lifting)」という要件があります。産業用ロボットが部品を持ち上げて空間内で移動させるとき、ロボットアームにはあらゆる種類の力、加速度、トルクがかかります。これまでは、『持ち上げの安全係数』や『動的に移動する際の安全係数』という要件はありませんでした。明文化されていなかったこと自体はロボットメーカーにとっては問題だという認識はありませんでした。明文化しなくても、ロボットを動かすためには当然必要な内容であるためです。しかし、2025年版では明確に規定されています。
より明確になることの利点は、競争の土俵が均等になることです。誰もが基準を満たしていると言うのであれば、少なくとも安全性の観点から非常に基本的な比較ができます。
大きな改善点のほとんどはパート2にあります。例えば、2011年版ではエンドエフェクターを備えたロボットシステムを対象としていたため、ワーク、使用目的、安全保護については具体的に書かれておらず暗黙の了解となっていました。2025年版では、ロボットのアプリケーションとロボットセルに重点を置いています。そのため、ワークや使用目的、安全防護といった要素は、現在ではより明確にカバーされています。
協働ロボットアプリケーションのための技術仕様書であったISO/TS 15066は、アップグレードされたISO10218規格に組み込まれました。ISO/TS 15066は最終的に独自の規格となる見込みです。
また、サイバーセキュリティに関する要求事項も追加されている。
パート1でもいくつかの重要な変更がありました。例えば、ロボットが備えるべき安全機能に関する要求事項が大幅に増え、明確になりました。2011年の文書では、安全機能はほんの数個しか要求されていませんでしたが、2025年版では20個以上が要求されています。
Q: ロボットメーカーやシステムインテグレーターにとって、これらはどのような意味を持つのでしょうか?
すべてのロボットメーカーは、やるべきことがあります。一部のメーカーは他のメーカーより少ないが、すべてのロボットメーカーは改善を進めていくでしょう。ユニバーサルロボットを含む主要なロボットメーカーは、これまでも機能安全と安全性に関して良い仕事をしようとしてきました。2025年版で必要とされる新しい安全機能の一部は以前から提供してきました。しかし現在、すべてのロボットメーカーには新たな安全要求事項とのギャップがあります。古い2011年版規格は2027年春に廃止されます。その前に、すべてのメーカーは新しい2025年の文書に準拠する必要があります。
頭を悩ませることもあります。例えば、新しい要求事項のひとつに外部軸に関するものがあります。多くのメーカーが外部軸を提供しており、大手メーカーはすべて速度制限の安全機能を提供しています。
しかし、新しいパート1規格では、ロボットメーカーはその安全機能の一部を外部化することが求められています。 例えば、ロボットの安全機能を使って外部軸の制限を行う方法や、外部軸が動いているときにロボットの速度制限を外部軸の動きに適用させる方法などが必要になります。私たちはインテグレーターの方々にこれを実現させる方法を伝えなければなりませんが、それは簡単なことではありません。私たちにとっては、それは可能だと考えています。メーカーはユーザーマニュアルを更新しなければならないでしょう。私はまだそのことで頭を悩ませていますが、私たちはそれを行いますし、すべてのメーカーもそうするでしょう。
パート2では、インテグレーションに関する新たな要件を定めている。パート1と同様に、パート2はより簡潔で、旧版よりも多くの安全機能が要求されています。 しかし、Part 2には、図解を多用した有益な附属書が多数あります。 機能安全も新版では大幅に拡張されています。
Q: これはエンドユーザーにとって何を意味するのでしょうか?
それは、ロボットアプリケーションやロボットセル周辺での作業環境が、より安全になるということです。
エンドユーザーは、パート2の「使用に関する情報」と呼ばれるセクションを確認する必要があります。このセクションには、エンドユーザーがインテグレーターやシステムを提供した人から受け取ることになっているすべてのものが記載されています。
これには、ロボットセル全体、その使用目的、可動範囲の限界について説明した取扱説明書が含まれるはずです。ハンドブックには、設置に必要なもの、ロボットとロボットセルを初めて使用する際のセットアップ方法、推奨されるトレーニングなどが記載されているはずです。
このハンドブック(=ユーザーマニュアル)はセルに付属していなければならないことを忘れないでください。設備を内製で立ち上げるようなエンドユーザーは、各機器を購入して自分で組み立てるので、パート2が適用されるとは思っていませんが、適用されます。パート2の要求事項はインテグレーションに関するものであり、それを行う主体は誰であっても変わりません。
Q: ロボットの安全性について、最後にメッセージをお願いします。
ユニバーサルロボットの無料リスクアセスメントトレーニングを受講することを強く勧めます。素晴らしい内容で、リスクアセスメントのプロセスを学ぶことができます。eラーニングでPCがあれば受講できるので、手元にロボットが無くても問題ありません。
インテグレーターは、パート2を深く掘り下げる必要があります。最後まで一度読むだけでは足りないと思います。何度も読み、いつでも再確認できるよう手元に置いておいてください。このパート2には約100ページが追加されており、そのほとんどは写真と有益な付録です。それらを読み、どうすべきか常に自問していただくことを勧めます。
また、安全専門家や制御エンジニアの方々には、2025年11月初旬にヒューストンで開催される国際ロボット安全会議への参加を検討されることをお勧めする。専門家が講演し、ケーススタディが発表され、新しい基準を世界に紹介する予定です。